ブログチャレンジに小説を発表ってのがあったから、昔のやつを公開してみました。恋愛です。
ブログチャレンジの中に、「小説を発表する」と「詩を発表する」とあったのですが、詩はいまだかつて書いた事がないので、とりあえず「小説」を公開することにしました。
大昔に書いたものなので、ちょっとどうかな。という気もしますが、まあいいか。と勢いで投稿します。
いつもの感じではないですが、いかがでしょうかww
Chocolat ideal
私の師匠は伝説のショコラティエ。
史上初のM.O.F.(フランス最優秀技能者章)を三部門獲得した凄い人。
数年前まで東京に高級チョコレート専門店を3店舗、洋菓子店を5店舗も持っていたらしい。
そんな私の師匠である西尊さんは、現在田んぼ率が60%山が30%住宅地が10%なドがつく田舎の私の町で小さな小さな洋菓子店を営んでいる。
その名も「西洋菓子店」。
どうしてもっとおしゃれな名前を付けないんだろうなぁ。
と、一度尊さんに聞いた事があった。
『洒落た名前なんか付けてもここいらの奴らに理解出来る訳がないだろ?』
皮肉気に上げられた片眉に貼り付けられた冷笑、そして口から出るのは甘いお菓子を作っているとは思えない毒。
はっきり言って私の師匠は皮肉屋で毒舌家。
初めて会った時なんか、怖くて注文する言葉が震えた程だ。
それでも並べられたお菓子の美味しさにリピーターが後を絶たず、尊さんの店は繁盛している。
たとえ「西洋菓子店でお菓子を手にするには勇気と慣れが必要。店主は冷徹ながらイケメン。そんな店主の毒舌を、乗り越えた先に手に出来るのは甘い至高の芸術作品です」と地方テレビ局に勝手に紹介され、それを耳にした近隣のチャレンジャー達が寄ってたかって店に押し寄せたのを一笑の元に追い出し、しばらく店を閉めたとしても……地元民には受けていた。
そんな尊さんと私が初めてしっかりと言葉を交わしたのは去年のバレンタインで、店の中でその時付き合っていた先輩と修羅場を演じた私を優しく慰めてくれた。
その時無言で差し出されたホットチョコレートにどれ程癒された事か──。
思いがけないその照れたような仕草に胸がきゅんと高鳴ったのを今でも覚えてる。
それから色々あって、私は尊さんに胸の高鳴りどころじゃない想いを感じさせられてしまっているんだけど。
ついでに言えば半ば強制的にケーキ屋……じゃなかった、パティシエになるべく尊さんの元で修行中だったりする。
彼には、私には向かないってどれ程言っても諦めてくれない。
私は食べる専門なんだけどな……。
「ハル、……ハル!……こら、小春!それ以上揺らすとチョコに水が入るっ。それにぐちゃぐちゃとかき混ぜるな、と何度も言ってるだろう!」
ぼーとそんな事を考えていたら、いきなり尊さんの怒号が飛んだ。
ハッとして手元を見ると、チョコレートの入ったボールが傾き冷水が今にも侵入しようとしていた。
「あ!……ごめんなさい」
慌てて直そうとした手はチョコレートの方に入っていた温度計を見事に引っかけ、それがボールの縁を滑って落ちそうになる。
温度計を掴もうと手を伸ばせば、ボールごと握ってしまっていて反対側の縁が持ち上がり、更にそれを防ごうとボールを浮かせれば下にあった冷水の入ったボールを押してしまって……。
そっちを気にすればこっち。と言う具合に驚いた私は、咄嗟に手を引きその上離してしまった。
ガラン、ガラン…ガラゥン──ビシャッ。
私は掴んでいたもの全てを手放していたみたい……。
かき混ぜていたチョコレートは水を弾きながらもぐっちょりと広がり、もちろん水はチョコレートの比ではないくらいに飛散している。尊さんの店の磨き上げられた作業テーブルと言わずその床までも、チョコと水でぐしゃぐしゃになってしまった。
もちろん私の服にもべったりで、まあそれは尊さんが私専用ってくれた真っ白いコック服とエプロンだからいいんだけど……。
「ハール……」
次の瞬間聞こえてきた尊さんの低ーーい声に恐る恐る横を伺い見ると、そこには飛び散ったチョコと水にまみれた彼が例の冷笑を浮かべて立っていた。
エプロンとかコック服とかにも大量に飛び散っていたチョコと水は、イケメンだと地元のTVが謳ってたその顔…というか首から上全体に満遍なく飛び散っていて、茶色いそれは見ただけだとなんだかアレのようで頂けない。
「し、師匠……あの、その……ごめんなさい」
私は思ったよりも慌てていたみたいで、咄嗟に自分の付けていた長いエプロンの裾を掴んで尊さんの顔を拭っていた。
それには一番近くにいた私にかかった大量のチョコがべっとりとついていたというのに……。
当然べっとりついていたチョコは尊さんの顔に移っていて、余計に汚してしまった。
「……ハル」
「あ!ああっ!ご、ごめんなさい!すぐにタオル取ってきますっ」
真っ青になって踵を返した私が足を一歩踏み出すと、何故か前に進まずに後ろへと移動した。
「あれ?」
と、振り返ると尊さんが私のエプロンと身体の間の隙間を掴んで引っ張っていた。
そのままぐっと引かれて彼の汚れた胸に背後からぶつかる。
「師匠?…タケルさん?」
首をひねって問いかければ冷笑のままの尊さんに身体を反転させられて、その鋭く冷たい双眸を真正面から受け止める事になってしまった。
「小春、今俺の言いたい事が解るか?」
「いえ、あの……」
「お前は何をしてたんだっけ?」
言い淀んだ私に怒り顔の彼が、問い詰めるように言葉を掛ける。
私は身の縮む思いで顔を下向けてぼそぼそと小さい声で答えた。
「チョコを良い感じになるように、混ぜて……」
「良い感じって……名前くらい覚えろよ。テンパリングだ。テンパリング」
「そう、そのテンパリングを……」
もう半年も尊さんの指導を受けているのに未だに専門用語を覚えられない私は、彼の言葉を継ぎながら賢明に状況を話そうとした。
だけどそれを尊さんは呆れた様子で遮ってくる。
「で、なんで今俺もお前もチョコまみれなんだろーな」
それはこぼしたからで、でもどうしてそうなったのかそれを私も知りたいです。と思いながら「どうしででしょう?」と返せば、彼は大きなため息を一つつき、下を向いていた私の頬を両手で包み込んで顔を上げさせた。
「あのなぁ……お前は注意力、というか集中力がなさ過ぎる。何度もいってるだろう、今は熱を下げてたから大事ないが、これが高温のものだったらどうするつもりだ」
言われた言葉はもっともで、だけど注意力も集中力も無いのは最初から解りきっている事で……。
「……ごめんなさい……あの、でも、やっぱり、私には……」
向かないです。と、言うつもりの言葉はまたしても強引な言葉に割り込まれて、最後まで言わせて貰えなかった。
「言い訳はもういい」
そう吐き捨てて私の頬を解放すると、髪にまで飛び散っていたチョコで頭が痒かったのか、何時も結わえてオールバックにしている色素の薄い柔らかそうなその髪を解き放ち、がしがしと無造作に掻きむしっている。
乱暴な仕草も彼がすれば色っぽいその様子を私はぼーと見ていた。
言い訳を言いたい訳じゃないのになぁ。
そう思いながらも色気むんむんな尊さんに、不謹慎な胸の高鳴りを覚えて顔に熱が集まってくる。
その様子に気が付いた鋭い彼は怒りを収めたのか、悪い事を思いついたかのような表情でにやりと私を眺めてきた。
「ハル。とにかく俺をこんな風にして……いいかげんにしろよ?」
言葉は諫めるそれだけど言った表情は妖艶で……。
汚れた髪をかき上げて片方だけオールバックに戻った尊さんは、その片手をこちらに差し出した。
「 罰だ、舐めろよ。」
引力のある双眸に射抜かれた私は、ふらふらとその手を取る。
瞬間、強い力で引かれた私は彼の胸へと顔をぶつけた。ふわっと香るチョコレートの甘い香り、目の前にあった茶色いシミに誘導されるように吸い付けば砂糖の入っていないそれは思ったよりも苦かった。
「そこじゃない」
そう言って小さな私の顔に向かって、大きな彼が降りてくる。
どんどんと近くなるイケメン顔。
そして重なった唇に、
そこには何もついてないよ?
そんな疑問を思い浮かべて笑いが込み上げてきた。
キスの間にクスクス笑うと、尊さんは唇を離して怪訝そうな表情で私を見たから、私はチョコの付いていた彼の口端をぺろっと嘗めた。
やっぱり苦いブラックチョコレート。
苦くて、でも仄かに甘いチョコレート。
それは彼のようなチョコレート。
万人にうけるものではないけれど、好きになったらやめられない。
だから私が甘くしてあげる。
それなら私は上手に出来ると思うから。
甘くなって皆に受け入れられるように、
そして、
他と同じになるように。
だってそうしたら、誰も良いところに気が付かないでしょ。
そうして私は尊さんを甘くする為にもう一度唇を嘗めた。
Fin
あとがき
いやーなんだか懐かしいなぁ。
こんなの書いてたんですよね。色々と設定が甘い部分が多々ありますが笑って見逃してください。
元小説知っている人がいたら奇跡ですけど、多分こんな所にはいない(笑
今見ると手直しした方がいいかもなぁ。とは思うけど。
本格的じゃないからいっか。
勢いで投稿しておく。
夜中の投稿って怖いですね^^;